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7.162018
業務の見える化によるワークスタイル転換のアイディアと取り組み方法・管理ツール事例
「ワークスタイルの転換」のアイディアは見える化にある~属人化をなくしチーム力アップ
ニューノーマル時代への対応に向けて短時間労働やフレックス勤務、在宅勤務など多様な就業形態・勤務形態を採用する動きが広がってきています。ワークスタイルの転換のために取り組むべきことは2つあります。1つは、長時間労働・残業などを助長する「仕事のブラックボックス化=属人化」を無くし、一人ひとりの仕事を適切に管理し、協業力を高めることです。
そして、もう1つは、「価値で仕事を選り好みするスタイル」への転換し、価値のない仕事をやめて生産性を高めることです。
業務の見える化によって、このようなワークスタイルの転換をするための進め方とコツを紹介します。
<目次>
ニューノーマル時代の課題は「仕事のブラックボックス化(属人化)」
ニューノーマル時代のワークスタイル転換のアイディアは「価値で仕事を選り好みするスタイル」への転換
ワークスタイル転換に有効な改善手法としての見える化
業務プロセスと能力の見える化によってブラックボックス化を打破
価値の認識と目的の見える化が仕事の付加価値を高める
ニューノーマル時代の課題は「仕事のブラックボックス化(属人化)」
長時間労働・残業など悪しき労働慣習を助長している最大の要因は、「仕事のブラックボックス化=属人化」にあります。誰が何をどのようにやっているか、どこまでやればいいのか、それらすべてが組織として管理されていないのです。上司や担当者個人の主観や経験で、仕事が決められ、判断されているため、本当に必要なこと以上の過剰やムダな仕事が行われているのです。労働生産性の統計から見れば、海外の労働者に比べて、日本人は労働時間の4割を価値ないことに費やしていることになるのです。
ニューノーマル時代では、多様な就業環境(時短やフレックス、在宅勤務)が提供されます。しかし、この多様な就業環境が、働く者の孤立化を招き、仕事のブラックボックス化(属人化)さらに増長させるのです。
仕事のブラックボックス化は、残業の「見えない化」を招き、長時間労働・残業を加速して、労働生産性を低下させます。
ニューノーマル時代のワークスタイル転換を成功させるためには、多様な就業環境において、仕事のブラックボックス化(属人化)を打破して、一人ひとりの負担を軽減し、チーム力を高め、残業ないチームづくりが不可欠です。
ニューノーマル時代のワークスタイル転換のアイディアは「価値で仕事を選り好みするスタイル」への転換
一方で、日本企業で行われている生産性改善のスタイルにも大きな問題があります。それは、「効率的」という言葉に代表されるように、従来の生産性改善は、時間短縮などの仕事のスピードを高めること、コストダウンなどの単価を下げることを中心とした取り組みでした。仕事をするために投入するリソースの時間やコストをいかに減らすかというもので、長いデフレ経済に苦しんできた日本の負の遺産とも言えるものです。最初から仕事をする前提の発想なのです。与えられた仕事に本当に意味があるのか、価値があるのかという考えがないのです。
価値を見える化して仕事を選り好みするスタイル
今、私たちは、早く安く仕事をするという発想ではなく、価値のある仕事と価値のない仕事(価値の低い仕事を含む)を見える化して選別し、限られたリソースを価値のある仕事だけに投入するという仕事のスタイルへの転換をしなければなりません。
そして、価値で仕事を選り好みするスタイルは、従来のビジネスから脱却して、新たなビジネスへと転換することのできる社員の育成にも大きく貢献するものとなります。削ることばかりに長けた社員ばかりでは、企業の行く末は明るくありません。未来に向けて次代の価値を創造し、ビジネスとして具現化する力をもった社員を育成することで、企業は大きく飛躍する可能性があります。
仕事は選ぶもの~価値のない仕事はしない
ここで、今一度、考えていただきたいことがあります。
「仕事のブラックボックス化」の改善は、皆さんは同意していただけると思いますが、「価値で仕事を選り好みするスタイル」への転換には、抵抗を感じる方は少なくないと思います。「選り好み」という言葉自体、あまりいい印象を感じない言葉です。しかし、日本の労働生産性の改善の遅れの原因が、ここにあると言えます。仕事は選ぶものではないという固定観念です。環境や技術が進展する中で、市場や顧客が求める「価値」は、次々と変わり、仕事のあり方も変化していきます。この変化に対応していくためには、仕事の価値に目を向けて、価値のない仕事をやめて、価値のある仕事に時間とお金をかけるようにしなければなりません。
あえて、「選り好み」という言葉を使うぐらい、仕事の価値に目を向けた改善への取り組みが必要ではないでしょうか。
ワークスタイル転換に有効な改善手法としての見える化
「仕事のブラックボックス化=属人化」の改善、「価値で仕事を選り好みするスタイル」への転換に有効な改善手法として、ここでは「見える化」を紹介します。
まず、見える化について説明します。
「見える化」の目的は、見えるようになることだと思っている人は少なくありません。例えば、仕事の見える化というと「自分の仕事をカードに書いて貼り出して、誰が何をやっているかわかるように見える化する」というように自分ではわかりきっている仕事をカードに書き出してお互いに見えるようにすることが「見える化改善」だと言うのです。
見えるようになっただけでは、何も良くなりません。何か恩恵を得るためには、行動しなければなりませんし、何かを変えなければなりません。今まで見えなかったものが見えるようになるということ自体は、知恵と工夫が必要であり、それ自体はすばらしいことです。しかし、そこから行動を開始しなければ、今までと何も変わらないのです。見える化とは、見えないものを見えるようにし、そこから、今までは行わなかった新たな行動が開始されてはじめて効果があるのです。
では、何か見えてから何をすればいいのか考えて行動を開始すればいいのでしょうか。それは、今、何をどのように変えていけばいいか何もアイディアが無く、必要な行動が何であるかわからないままに、見たいものを見えるようにしているだけのことになります。
自分たちの仕事において、何をどのように変えて良くしていきたいのかを明確にし、そのために必要な行動が何であるのかを定義し、その行動を開始するために何が見えるようにしなければならないかを明らかにしていくことができてこそ、見える化を行う価値があります。
見える化は、仕事をよくするために何かを変えるために必要な行動を開始させるトリガー(引き金)であり、必要な行動が開始されない見える化は、何も価値がない単なる見えた化にしか過ぎません。
業務プロセスと能力の見える化によってブラックボックス化を打破
それでは、見える化によって仕事のブラックボックス化を打破して、組織として仕事を管理できるようにするための改善ツールを3つご紹介します。
(1)属人化プロセスの見える化で仕事の標準化
オフィスワークでは仕事が属人化していることが多々あります。特定の人しか分からないプロセスは、その人がいないと誰もカバーすることができず、仕事が止まってしまいます。また、属人化させてしまっている人が他の人にその仕事をきちんと教えることができなかったり、自分では改善ができなかったりします。それは、属人化させてしまっている人がそれほど意識しなくても処理をしているプロセスが存在していたり、自分では当たり前すぎて気づかないことがあったりすることから起こります。仕事を標準化し共有してチーム力を高めるためには、属人化しているプロセスを明らかにすることが必要です。
属人化プロセスは、「プロセスマップ」や「フロー図」等を作成する過程で明確にします。「プロセスマップ」とは、現在の業務を、1カード1プロセスを基本単位として付箋紙に記入し、それを順番に並べた動的手順書で、標準化・計画ツールの一つです。属人化させている人が作った「プロセスマップ」や「フロー図」について、仕事を引き継ぐ人がわからないところを質問したり、実際に作業を行う中で、曖昧な点や抜け、漏れ、実際に発生したトラブルからの盛り込み等をしながら補っていき、属人化プロセスを明らかにしていきます。
「プロセスマップ」や「フロー図」を属人化させてしまっている人が作成すれば、標準化ができ、共有できるわけではありません。属人化させてしまっている人が作成できるのは、自分にしかわからない手順書です。まずは、それを吐き出させ、次にその仕事について知らない人が質問することで、その仕事のノウハウを本当に引き出すことができます。
(2)能力の見える化で最適配置
職場のメンバー全員が同じ能力を持っていることはありません。新人もいればベテランもいます。数字に強い人もいれば弱い人もいます。対人折衝力の長けた人も不得意な人もいます。職場は得手不得手、経験の有無なども含めて様々な能力をもった人たちの集まりです。その能力を適材適所に配して、みんなの能力を最大限に利用し、足りないところは伸ばしていかなければなりません。そのためには、誰がどのような能力を持っているのかを見える化します。職場のチームメンバーの能力の見える化のしかけが「スキルマップ」です。
その職場における仕事に必要な能力(スキル)を、誰がどのくらい有しているのかをマトリックス図などで一目でわかるようにしたものです。
最初から能力のある人はいません。配置をしていくことと能力を高めることを同時に行っていきます。能力とは知識+力量です。知識教育をした上で、相応の経験をさせて力量をつけさせていきます。スキルマップによって能力の分布状態をみて、どの分野の能力を高めていくべきか、そのためには誰にどの領域の知識と経験をさせて、能力開発をしていけばいいのかを容易にイメージできるようにすることがポイントです。
(3)偏りの見える化で仕事の平準化
職場では能力や負荷に違いがあり、偏りが発生していることがあります。例えば、A課とB課では3人の人員がいますが、それぞれ2.5人分の仕事しかありません。それぞれ0.5人分ロスが発生しています。これを配置ロスと言います。この場合、A課、B課それぞれのバックオフィス業務を標準化して独立させ1人分と仕事として行い、1人を新たな価値を生む仕事に回す等すると人財が活きてきます。また、月初と月末は余裕があり月中が忙しい人、反対に、月初と月末は忙しいが月中は余裕がある人が同じ職場にいて、いつも残業がしているような、バランスロスが発生していることもあります。異なる職場間でも同じようなことがあります。この場合、残業が発生している時期の負荷分散を的確に行うことで、残業はなくなります。仕事の平準化を行い、組織能力の最適化を実現してチーム力を高めるためには、問題点を明らかにしなければなりません。まず偏りを見える化することが必要です。
偏りを見える化するツールには「ストア管理」があります。「ストア管理」はオフィス版かんばん管理です。タスクカードを担当者別に貼り出し、本日の行うべき作業、現在行っている作業、完了した作業をわかるようにします。
担当者別のストア管理を行うことで、今、誰が、何の作業を行っているのか、この後どんな作業を予定しているのかをわかるようになり、各人の負荷が一目瞭然になります。また、1ヶ月等の期間で区切って、完了カードを見直すことで、誰がどの時期に何の仕事で忙しいのか、職場の繁閑が明らかになります。これらから課題を抽出して平準化をめざします。なお、複数職場で配置ロスやバランスロスが明らかになれば、部門単位等で手を打つことも可能になります。
価値の認識と目的の見える化が仕事の付加価値を高める
続いて、「価値で仕事を選り好みするスタイル」への転換を促す見える化改善ツールを2つご紹介します。
(1)顧客の見える化で仕事の価値を認識
顧客に提供する商品やサービスの営業、開発部門などは、誰が顧客であるかを認識して顧客が何を求めているかを日々、追求しています。しかし、管理間接業務や社内向けサービスを行っている部門は、顧客が誰であるか認識しないまま、顧客の求めるものを提供するというよりも、決められた手順を遂行することが仕事の目的化しています。仕事には必ず、そのサービスの便益を受ける顧客が存在します。その顧客が誰であるかわからなければ、仕事の価値が何であるのかわからないも同然です。仕事の価値を認識し、高めるためには、自分たちの顧客が誰であり、何を求めているのかを見える化することが必要です。
自分たちの仕事における顧客を定義します。自分たちの仕事によって、何らかの便益を受ける人が誰であるのか、どこの組織であるのかを明確にします。自分たちの仕事によって顧客に与える便益が何であるのか、その効果はどのようなものなのかを明確にして記述します。
仕事を改善したり、問題発生時に対策を考えるときに、この顧客定義をまず見てから、問題の原因や対策の方向性、改善案を検討していきます。誰が顧客であり、何を提供すべきかを考えて、問題への対処や改善を行っていくことが的を射た対策や改善ができます。
(2)目的の見える化で手順トレーサーから卒業
例えば、「請求書作成は何のためですか」と尋ねられれば、「顧客が商品を購入したから」(①)、「お金を振り込んでもらうため」(②)等と答える人が多いのではないでしょうか。①は理由、②は自分たちの便益です。目的は「適正な支払い手続きのための情報提供」です。こう答える人は少ないでしょう。思いのほか、目的を認識していない人が多いのです。また、「集計しておいて」、「この資料をまとめておいて」等、作業内容だけを指示し、目的を指示しない管理者も多くいます。仕事の目的がわからなければ、手順通りに作業を進めることが仕事になってしまい、環境変化に対応することや改善はできません。日々の仕事の中で、スタッフが自分の仕事について考える機会をつくり改善を生む土壌をつくるために、仕事の目的の見える化が必要となります。
仕事の目的を見える化するには「業務指示カード」があります。口頭ではなく、仕事の目的を記載したカードで仕事を指示します。「~のために○○する」というように目的を明示します。
常に仕事の目的を明らかにしていくことで、その仕事に最も重要なことが何であるのかが見えてきます。目的が明示できない仕事は必要のない仕事かもしれません。そこで、その仕事をなくすことを考え、実施することが重要です。また、仕事の目的を書くこと自体がポイントになります。口頭での指示ではたくさん説明して、容を伝えることが多いものです。ワンフレーズで端的に表現して伝わることが、目的をいっそう明確にすることにつながります。
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